2022.03.01

帝人「キヅクログ」で予防医療サービスへ参入。趣味人倶楽部の会員基盤を活用して実証実験を実施。

70代以降のシニアが要介護認定となる要因は、認知症や加齢による衰弱以外に脳卒中や心疾患などの健康阻害によるケースなど多岐にわたります。これらを事前に防ぐには、シニア自身が自分の健康状態を認識しさらに維持しようという気づきを与えることが必要です。医薬医療事業を展開する帝人が、シニア向け健康管理維持サービス「キヅクログ」を開発するにあたり、モニター調査やユーザアンケート・サービス体験設計を、趣味人俱楽部と取り組みました。帝人の増村様と、オースタンス代表の菊川との対談内容をお伝えします。

  ▲左から、帝人株式会社 ヘルスケア戦略推進部門データソリューション事業開発部 部長 増村様、オースタンスCEO 菊川

シニア向け「キヅクログ」サービスで予防医療をオンライン化へ

菊川(OST):まずは、御社のサービスについての概要をご説明いただけますか。

増村(帝人):昨年度より、主に要介護認定を受ける前のシニアを対象にした、健康管理維持サービス「キヅクログ」の企画推進を行っています。専任の保健師によるシニアへの問診と健康チェックで、シニア自身が自分の健康状態を把握できるだけでなく、定期的な面談を行うことで健康維持を促進させるのがこのサービスの目的です。プログラムには、一人一人に合った運動や栄養相談、料理レシピのアドバイスなどのコンテンツも含まれているので、シニアが楽しみながらいきいきと健康を維持できるというものです。

菊川(OST):弊社と取引する以前は、どのような取り組みをされていましたか。

増村(帝人):以前はシニア層が多く集まると予想される、フィットネス事業者やNPO団体様へキヅクログのVOC収集にご協力をお願いしていました。しかし、開発に着手し始めたと同時にコロナ禍になってしまい、調査方法をオンラインへシフトせざるを得ない状況へ。そこで60代・70代が中心の趣味人俱楽部の会員基盤は、ITリテラシーが高いアクティブシニア層として以前より興味関心を寄せていたこともあり、キヅクログの実証実験に最適だと判断し依頼しました。

ご案内の丁寧さがあれば、シニアのオンライン化は充分に可能。

菊川(OST):今回弊社からはキヅクログ開発の実証実験において、御社担当者様にもいろいろとご提案させていただきました。結果や効果など御社に寄与できたことはありましたか?

増村(帝人):オースタンス様には、ユーザーアンケートの作成やスクリーニング、モニター集客、そしてユーザー面談の日程調整など、運用に関わるバックヤード部分のサポートまでも非常に多岐に渡り対応していただき、たいへん感謝しております。特にオンラインに不慣れなシニアに対して、zoomの使い方の説明もしていただくなど、柔軟に対応いただいたおかげで効率的な実証実験が実施できたと思います。

菊川(OST):ありがとうございます。お力になれたようで何よりです。キヅクログの現在の課題や、取り組んでいることについても伺えますか。

増村(帝人):キヅクログは保健師さんの人柄や会話力が顧客維持や満足度へ大きく影響するため、オンライン診断のマニュアルやガイドラインの作成など、品質をどうあげていくのかが重要です。その一方で、ボタンの配置や色味などシニアの方々のITリテラシーに対応したシステム改善も必要だと思案しているところです。いまはこれらの課題を解決し、来年度のキヅクログのローンチに向けて、具体的なシナリオ設定を検討しているところです。

菊川(OST):なるほどですね。そもそも御社がtoCビジネスを始めるという所が新しいと思いますが、キヅクログの着想はどこからきたものだったのでしょうか。

増村(帝人):開発のきっかけとなったのは、「フレイル健診」という後期高齢者医療制度が2020年に全国で始まったことです。フレイルとは要介護になる前の健康な人の予防医療の領域で、弊社ヘルスケア事業としてもこれまでの経験を活かしフレイル予防に関してなにか貢献できるのではないか、toCとして新たな事業モデルになるのでは、と着想し始めたのが約2年前です。初めは、シニアのための遊園地のような箱を各自治体に作り、箱の中にエンターテイメントや健康リテラシーをあげられるコーナーを設ける、というようなコンテツ制作を企画していました。

▲帝人株式会社 増村様

増村(帝人):そうして実際に開発するにあたり、既にフレイルデータを採取されていた鹿児島大学の教授へコンタクトを取り共同研究することに。しかしその最中にコロナ禍となり、実地測定が不可能となったためオンライン化に舵を切ることにしました。オンライン実施には、モニターとなるユーザーのITリテラシーが必要なため、条件に近しいユーザー会員をお持ちの趣味人俱楽部様へ依頼させていただいたわけです。

菊川(OST):そういうことだったのですね。確かにシニア世代相手ですとITリテラシーの低さがネックになるため、丁寧な事前の段取りが必要ですね。

ただ、ITリテラシーが高い会員が多い趣味人俱楽部でも、2020年5月にオンラインイベント機能をローンチしたのですが、反応が得られなかったことがあります。原因を探るために、後日会員インタビューをした所、「zoomの使い方がなんとなく面倒」、「やり方がわからない」といった、そもそものオンラインの入り口部分にハードルを感じられていることがわかりました。そこで動画での説明や印刷用マニュアルがを作成するなど、いろいろ試した結果、結局は電話で直接案内することに一番反響がありました。最終的には、『電話の接続サポートを行う、オンライン機能の使い方教室』を開催したところ、予想以上の反応が集まり、3ヶ月で月間1000人が利用する機能になりました。

増村(帝人):それはすごいですね。実はちょうど、シニアの離脱回避をどうしたら防げるかを考えていたところです。なにかしらシニアならではのエッセンスが必要ではないか、と探っているのですが、趣味人倶楽部では継続率の向上はどのように取り組んでいるのでしょうか。

菊川(OST):弊社の場合は、会員様同士がコミュニケーションを行うコミュニティを価値にしているため、ユーザーの方々が主体的にアクションしてくださることが継続に繋がります。なので、利用し始めの入り口部分で自動的にコミュニティ参加へ繋がるように仕組みを作っています。

また、コミュニケーションのきっかけを作るために「話しかけられること」が大事だと考え、趣味人倶楽部のいい意味でお節介な会員を抽出し、その方々に会員登録したばかりの人と出会っていただく仕掛けを作ることで、翌月継続率70%になっております。

こうした経験や知見を、キヅクログ開発など各企業様へ寄与できていることが弊社の強みだと思います。

▲株式会社オースタンスCEO 菊川

増村(帝人):継続率70%はすごい!お話しいただいた趣味人倶楽部様の仕掛け作りは参考になります。今回toCに挑戦する最初の一歩を、御社に伴走していただいたおかげで踏み出せました。ローンチする際などは、あらためて趣味人俱楽部様の強みや知見を活用させていただきたいと思っています。

菊川(OST):こちらこそ、ぜひ協力させてください。弊社は、「シニアが歳を重ねることをポジティブに捉えられるようにすること(=“エイジングエネルギー溢れる、社会をつくる。”)」をミッションにしていますが、自社のプロダクトだけでは作り出せる価値に限界があります。ほかのアセットをお持ちの企業様と連携することで、自分たちだけでは広げられない領域もコミュニティ内で提供していきたいと思っています。

弊社にご依頼いただく企業様の多くは、シニア同士の繋がりを楽しいものにすることであったり、シニアの「好き」を見つけることであったりと同じようなビジョンを持ってらっしゃることも多く、両社の強みを活かし合える関係を築いていきたいですね。

増村(帝人):確かに自社だけではなく、自社に近しいアイデアを持ってらっしゃる会社と連携していくのも必要だと、今回のキヅクログ開発で感じました。趣味人俱楽部のひとつの特徴だと思うのですが、GoogleやAmazonのように誰が書いたかわからない機械的なレコメンドとは違い、ユーザー同士の本当に互いのことを知った上での親身なオススメや、公式からもシニアの感情に合わせて体温あるトンマナでサービスを提供されているなと感じています。これは非常に訴求力があると思います。

菊川(OST):長年の人生を経験されているシニア世代は、自分達に近い体温を感じられるレコメンドに共感されることも多いですね。それを実際に体感したのが、以前勉強会で集まってくれた会員様と話しをしていた時に聞いた「この歳で失敗したくない」という言葉です。長い人生でたくさんの失敗を経験しているシニア世代だからこそ、信頼できるオススメ情報だけを選びたい、というインサイトがあるのだと気づかされました。

増村(帝人):なるほどそういうキーワードが聞けるのも、シニアユーザーを抱えておられる御社ならではですね。

シニア世代ならではの経験値と探求心を、支えられるビジネスを。

菊川(OST):御社では今後の高齢化社会においてどのように関わっていきたいとお考えですか?

増村(帝人):これからの日本には、シニアの方々が健康で楽しい日々を送ってもらえるよう、QOL向上に対する取り組みが必要だと思っています。そのために、弊社でも従来のヘルスケアサービスアはもちろん、モビリティなど社会的意義のある価値を弊社でも提供していけたらという想いです。

菊川(OST):そうですね。ぜひ医療やヘルスケア領域でも、今後ともご一緒できればと思います。最後になりますが、弊社では、歳を重ねた人の持つエネルギーを「エイジングエネルギー」と呼んでいます。増村様の「エイジングエネルギー」についての考えをお聞かせください。

増村(帝人):一言で表すなら「物事を俯瞰できる経験値と知識、そして探求心」だと思います。定年後の暮らし方は地域でゆっくりと、という昔は当たり前だった時代から、今後は人生60年で培った成功と失敗を踏まえて新しいチャレンジをしていくシニアが増えると予想しています。今はコロナでエネルギーをため込んだ生活を強いられているシニアの方々も多いと思われるので、そのエネルギーをすべて使いきれる世の中が構築されるといいですね!