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公開日: 2024.10.31

更新日: 2024.10.31

【第一部】シニアの住まい選択 サ高住と有料老人ホームの境界線 ~企業と顧客の溝~

はじめに

人生も終盤に差し掛かると、人は否応なしに衰えという現実と向き合う。多くの場合、それは介護の手を必要とすることを意味する。そんな時、人々は新しい日常の過ごし方を考え、自身を取り巻く環境を整えていかなければならない。それは単なる住まいの選択ではなく、最後の過ごし方の選択ともなる得る、重大な決断となる。

このような状況の中、シニアの方々は自身に介護が必要となった時、どこに住みたいと思うのだろうか?オースタンスの調査によると、高齢者向け住宅や介護保険施設で過ごしたいと答えた人は全体の半数以上を占めた。それだけにこれら施設への需要や関心は高まっている。

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※ [1] 参照:シニアDXラボ「シニアの住宅動向レポート〜急増している高齢者向け住宅の実態〜」(2024年7月26日更新)

高齢者やその家族が高齢者向け住宅を検討する際、まず直面するのが適切な住まいの選択だ。この選択を行うには、様々な高齢者向け住宅の種類とその違いを理解する必要がある。しかし、高齢者向け住宅の選択肢は多岐にわたり、その違いを把握するのは簡単ではない。

主な高齢者向け住宅の種類とその特徴は以下の通りだ。

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※ [2] 参照:LIFULL介護「高齢者住宅とは?種類の違いや費用、選び方について」(2024年10月21日閲覧)

この中で、本記事ではサービス付き高齢者住宅(以下サ高住)について言及していきたい。

サ高住の急速な普及は、日本の高齢化社会における新たなニーズに応える形で進んでおり、2021年の統計によると、サ高住は全国で約27万戸存在し[3]、高齢者向け住宅の中でも主要な選択肢の一つとなっている。また、介護業界の売上上位企業の多くがサ高住を運営していることから、サ高住に対して市場の関心も高まっていることがうかがえる。以下の表が介護企業の売上高ランキングであり、そのほとんどがサ高住を運営している。

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※[4]参照:販促の大学「【業界研究】介護業界のトレンド情報 〜2024年調査版〜」(2024年2月9日公開)

しかし、その普及の速さゆえに、サ高住と従来の有料老人ホームとの違いが一般に十分理解されていない可能性がある。

このような背景から、本レポートでは高齢者向け住宅市場において、サ高住と従来の有料老人ホームとの違いに関する顧客の認知度を把握し、分析する。

本調査の目的は、以下の状況を明らかにすることである。

  1. サ高住と有料老人ホームの違いに関する顧客の認知度
  2. サ高住に関する顧客の検索傾向
  3. 高齢者向け住宅事業者のサ高住に関するマーケティング活動

本記事は二部構成となっており、今回の第一部ではこれらの状況を把握し、高齢者向け住宅市場におけるサ高住の位置付けを明らかにする。そして第二部にあたるシニアがサ高住を選ぶ際の判断基準に関する調査レポートでは、更に今後のマーケティング活動の方向性を示唆することを目指す。

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サ高住の法的定義と制度的背景

日本政府がこの高齢者住まい法の改正に至った主な要因は、少子高齢化による高齢者世帯の急激な増加にある。2001年に高齢者住まい法が初めて制定された当時、日本の総人口に占める高齢者の割合は約17.4%であった[5]。そこから2011年に法が改正される頃、その割合は23.0%を超えており、約5.6ポイントという急激な増加を見せた。これは高齢者人口が約740万人増加したことを示しており、それに伴い、特に都市部では独居の高齢者や家族による居住支援が期待できない高齢者が増え、そうした人々の住生活をどう支えていくかが社会の課題となった[6]。

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※[5]参照:総務省「統計から見た我が国の高齢者 ー「敬老の日」にちなんでー」(2023年9月17日公開)

さらに当時は、要介護度の低い高齢者も特別養護老人ホームの申込者となっている現状から、高齢者向け住宅の数が不足していることがうかがえる。その打開策として、改正高齢者住まい法で打ち出されたのがサービス付き高齢者向け住宅という新制度である[6]。この法律が定義するサ高住とは以下の通りである。

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※[7]参照:厚生労働省「サービス付き高齢者住宅について」(2024年10月21日閲覧)

このようにサ高住は、従来の有料老人ホームとは異なり、賃貸住宅としての性質を持ちつつ、高齢者向けのサービスを提供する新しい形態の住まいとして位置づけられている。

ここで特筆するべきなのは、提供サービスの欄にも記載されている通り、サ高住が食事の提供、介護の提供、家事の供与、健康管理の供与のいずれかを実施している場合は有料老人ホームに該当し、老人福祉法の指導監督の対象となる。それはつまり、そのサ高住はサ高住としての登録と共に有料老人ホームとしての届出も必須となり、二重の規制に基づいて運営しなければならなくなるのである[7]。

調査手法

本調査では、デスクサーチを中心とし、以下の3つの方法を用いてデータを収集・分析した。

3.1 企業の広報戦略分析 介護業界の売上上位企業のウェブサイトを観察し、サ高住と有料老人ホームのマーケティング活動の違いを分析した。

3.2 定量情報 Google検索ボリューム調査ツールを使用し、「サ高住」に関連する検索ワードとそのサーチ数を分析した。

3.3 定性情報 高齢者や介護関係者のブログ、Q&Aサイトなどの文献を読解し、サ高住に関する認識や理解度を分析した。

調査結果

4.1 企業のマーケティング活動の分析結果

企業業界の売上上位企業3社の、サ高住と有料老人ホームのウェブサイトとそこへの導入について調査した。調査方法として、それぞれの企業名とサ高住というワードを検索にかけ、そこからどのようなホームページが提示され、サ高住に関するどのような情報が提供されるのかを検証する。更に、同じ手法を有料老人ホームのワードでも行い、その差分を見て傾向を掴むことである。

結果、以下のような傾向が見られた。

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A社の例の場合、「A社 サ高住」とGoogle検索すると、サ高住専用のウェブサイトへ飛ばされた。一方で、「A社 有料老人ホーム」とGoogle検索すると、有料老人ホーム専用のウェブサイトへ飛ばされ、その中にサ高住のウェブサイトへ通じる案内広告が埋め込まれていた。

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B社の例の場合、「B社 サ高住」とGoogle検索すると、有料老人ホーム専用のウェブサイトへ飛ばされ、サ高住に関する情報や案内は掲載されていなかった。一方で、「B社 有料老人ホーム」とGoogle検索すると、有料老人ホームのウェブサイトへ飛ばされたが、その中にサ高住の情報がいくつか混在していた。しかし、それらはサ高住と明確に表現されておらず、他の有料老人ホームとの区別が付けられることなく広報されていた。

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C社の例の場合、「C社 サ高住」、もしくは「C社 有料老人ホーム」のいずれかのワードで検索しても、同じウェブサイトへ飛ばされた。そのウェブサイトは高齢者施設の案内をしており、サ高住と有料老人ホームを区別しての広報はしていなかった。

これらの企業のマーケティング活動分析結果は、消費者側の認識や情報ニーズと密接に関連していると推測される。企業がサ高住と有料老人ホームを明確に区別せずに広報している傾向が見られる一方で、消費者側ではこれらの違いについて情報を求めている可能性がある。この点をより詳細に理解するため、次に消費者の検索行動に焦点を当てた定量的な分析結果を見ていく。

4.2 定量情報分析結果

Google検索ボリューム調査の結果、以下のような傾向が見られた

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このように、上位5組の検索ワードのうち2つが「サ高住と(有料)老人ホームの違い」に関するものであった。

更に、次は「サ高住」という略称ではない、「サービス付き高齢者向け住宅」と共に検索されるワードで調べてみる。すると以下の傾向が見られた。

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このように、上位5組の検索ワードのうち2つが「サービス付き高齢者住宅と有料老人ホームの違い」に関するものであった。

このデータから見て取れるように、多くの顧客側の人々がサ高住の定義や有料老人ホームとの違いについて情報を求めていることがわかる。特に、サ高住と有料老人ホームの違いに関する検索が多いことは、両者の違いが一般に十分理解されていない可能性を示唆している。

これらの定量的な調査結果は、定性的な分析からも裏付けられる。Google検索ボリューム調査で見られたサ高住と有料老人ホームの違いに関する高い関心は、実際の高齢者や介護関係者の声にも反映されている。次節では、こうした声を詳細に分析し、サ高住と他の高齢者向け施設との区別に関する一般的な認識の実態を明らかにする。

4.3 定性情報分析結果 高齢者や介護関係者の文献を調査した結果、以下のような傾向が見られた:

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これらの例から、一般の高齢者やその家族が、サ高住と従来の老人ホームや介護施設との違いを明確に理解していない可能性が示唆される。この可能性の更なる調査は、次回の記事にて行っていく。

考察

定性情報分析と定量情報分析の結果から、以下の点が示唆される。

  1. 一般の高齢者やその家族は、サ高住と従来の有料老人ホームや介護施設との違いを明確に理解していない可能性が高い。
  2. サ高住に関する基本的な情報(定義、有料老人ホームとの違い、費用など)への需要が高い。
  3. サ高住を介護施設の一種として認識している人が多い可能性がある。

これらの結果は、サ高住という住まいの形態が法的に認められてから約10年が経過しているにもかかわらず、その特徴や従来の有料老人ホームとの違いが一般に浸透していないことを示している。

結論 ~第二部に向けて~

本調査の結果、サ高住と有料老人ホームの違いに関する顧客の認知度は低く、多くの人々がこれらを明確に区別できていないことが明らかになった。また、大手企業の多くは、この状況に適応する形で両者を区別せずに広報を行っている。

この調査の結論から、次の問いが導き出される。このような認識が曖昧な状況の中、サ高住に入るシニアたちは、なぜ数ある選択肢の中からそこを選ぶに至ったのだろうか?その判断基準とは一体なんだったのか?次回の記事にて、インタビューなどの、より詳細な定性調査を経て今回の記事で立てた仮説を検証していく。

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参考

[1] シニアDXラボ「シニアの住宅動向レポート〜急増している高齢者向け住宅の実態〜」(2024年7月26日更新)

[2] LIFULL介護「高齢者住宅とは?種類の違いや費用、選び方について」(2024年10月21日閲覧)

[3] サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム「サービス付き高齢者向け住宅の最新動向(2021年8月)」(2021年10月21日閲覧)

[4] 販促の大学「【業界研究】介護業界のトレンド情報 〜2024年調査版〜」(2024年2月9日公開)

[5] 総務省「統計から見た我が国の高齢者 ー「敬老の日」にちなんでー」(2023年9月17日公開)

[6] サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム「高齢者住まい法の改正について」(2024年10月21日閲覧)

[7] 厚生労働省「サービス付き高齢者住宅について」(2024年10月21日閲覧)

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