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公開日: 2022.08.01
更新日: 2024.07.26
最終更新日 2024.07
まず、シニアの住環境に関して住居形態と近年興隆している高齢者向け住宅市場についてデータとともに概観していく。
内閣府の出している高齢社会白書 によると、平成30年の住宅保有状況は以下のようになっている。
※高齢社会白書(2021)
単身の65歳以上になると途端に持ち家率が下がり、賃貸で生活している割合が33.3%となっていることがわかる。
また、 総務省が公表している土地統計調査 によれば、1990年以前に建てられた物件の割合が38.8%となり、持ち家を保有している高齢者の物件は築年数が30年以上も経過している場合が多いと推察されている。 こうしたことから、自身のライフスタイルの変化、介護や支援を想定した増改築を検討する高齢者も多いのではと考えられる。
さらに、 国土交通省の住生活基本計画 では、プレシニア(50〜64歳)・アクティブシニア(65〜74歳)を対象にした高齢期に備えた既存住宅の改修に関する配慮事項が示されている。
※ 国土交通省 第6回サービス付き高齢者住宅に関する懇親会資料 より引用
増加する高齢者の中には、自立した生活を送れず、国から要支援・要介護認定を受ける人たちが15%は存在しており、そうした人たちの住環境を見ていく。
まず、要支援・要介護認定とは 厚生労働省が定める審査判定 を経て、どの程度の介護サービスを必要とするかを判断するものとなっており、要支援は2段階、要介護は5段階で認定を受ける。 必要とされる度合いが強くなるにつれて、国から受けられる給付金が多くなったり、受けるサービスが手厚くなったりするため、客観的に個人が抱えているハンデの重さを判断する指標として用いられる。
※ 厚生労働省 要介護認定の仕組みと手順 より引用
こうした要支援・要介護認定を受けている高齢者のうち、特別養護老人ホームといった施設に入っている高齢者の割合は22%を占めている。
※ 国土交通省 第6回サービス付き高齢者住宅に関する懇親会資料 より引用
つまり、要介護認定されている高齢者でも、いわゆる老人ホームのような介護サービスを日常から受けられる施設に入っている割合は多くはなく、在宅にいながら在宅看護を受けていることとなる。 また、年齢が上がっていくにつれて要介護認定率は高くなり、75歳以上で32.1%、85歳以上で60.6%となっており、多くの高齢者が自立した生活は難しくなっている。
※ 介護保険事業状況報告 (2019)及び 総務省統計局人口推計 (2019)より
こうした中で問題となっているのが、施設に入りたくても入ることのできない要介護高齢者が多く存在しているということだ。
2019年の厚生労働省の特別養護老人ホームの入所申込者の状況によれば特別養護老人ホームに申し込みをしているが入所できていない高齢者数は29.2万人に及んでいる。
※ 厚生労働省 特別養護老人ホームの入所申込者 の状況を基に作成
要介護3以上の高齢者のみを入居するよう条件を厳格化したが、それでも2016年以降は横ばいとなっている。 2019年時点での特別養護老人ホームの利用者数が59.3万人となっているので、利用者数のほぼ半数もの人数が列を作っている状況と言える。
こうした背景から、急速に民間が運営する高齢者向け住宅が増えてきている。
まずは高齢者向け住宅の内訳を解説したのちに、前項で挙げられていた特別養護老人ホームと有料老人ホームとの比較、近年急速に増えているサービス付き高齢者向け住宅について解説していく。
国土交通省が出している資料によれば、高齢者向け住宅を構成している要素として挙げられるのは以下の4つとなっている。
高齢者向け住宅は要介護の高齢者の受け皿として期待され近年急速に増えており、2012年から2018年までで利用者数が54.1万人から91.2万人へと、68%の増加率を見せた。 特に有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅の増加は著しい。
※ 国土交通省 第5回サービス付き高齢者住宅に関する懇親会資料 より引用
ここからは、有料老人ホームとサービス付き高齢者住宅に焦点を当てて解説を進めていく。
そもそも老人ホームとは介護が必要な高齢者向けの住居サービスであり、以下の特徴がある。
特別養護老人ホームと有料老人ホームの決定的な違いは前者が公的な機関によって運営されており、最低限のサービスを比較的安価で受けれるのに対し、後者の有料老人ホームは民間企業が運営しており、施設によっては充実したサービスを受けれるが、特別養護老人ホームと比較すると費用が高くなってしまうことが挙げられる。
前項で見たように特別養護老人ホームも利用者数は増えてきているが、2019年時点で待機高齢者数は29.2万人もいる。 有料老人ホームも非常に早いペースで利用者数が増加しているが、費用面で入居を渋る高齢者も一定数存在していることが推察される。
有料老人ホームが急速に増えている中で、サービス付き高齢者向け住宅もまた急激な増加率を見せている。 まずは有料老人ホームと比較をして、施設としての特徴を捉えていく。 その後、サービス付き高齢者向け住宅に向けられている期待と動向について解説していく。
老人ホームはあくまでも施設の利用権契約をするのに対して、サービス付き高齢者向け住宅は物件に対して賃貸借契約を結ぶ点が大きな違いとなっている。
なので、老人ホームと比較して、常にスタッフのケアサービスを受けたり他の居住者と常に共同生活を送るというわけではなく、一般的な賃貸に居住しつつ、自分に必要なケアサービスは別途契約を行う必要があり、居住者の自由度が高い選択肢とされる。
また、有料老人ホームと比べると入居一時金もかからないので初期費用が安く抑えることができ、月々の費用も軽くなっている。
国土交通省はサービス付き高齢者向け住宅が急増している中で高齢期の居住の場の選択肢として、より一層重要な役割が求められているとして、有識者から今後の取り組みの進め方について検討する 「サービス付き高齢者向け住宅に関する懇親会」 を設置しています。
この会では、サービス付き高齢者向け住宅をただの住まいとしてではなく「地域包括ケア」を担う存在として、まちづくり全体の中で位置づけを行い、これからの課題や政策提言などが行われている。
そこで挙げられているトピックとしては以下のようなものがある。
これらのトピックから、今後はサービス付き高齢者向け住宅を基点に、医療・介護・予防・生活支援が包括的に提供され、多くの高齢者が良いサービスを享受できるかが今後の論点となっていきそうだ。 また、サービス付き高齢者向け住宅には国から補助金が出ており、今後もますます需要が高まると想定されるので成長が見込まれる領域と言える。 こうした背景から激化しているのが仲介ビジネスだ。
今後、有料老人ホームとサービス付き高齢者住宅を中心に高齢者向け住宅は伸長していくことが予想される。 それに伴い、介護施設関連マーケットにおける紹介ビジネスも成長しており、参入する企業が増えている。
※高齢者向け住宅の増加率とネット広告市場の成長率から推測・作成
この紹介ビジネス領域においてキーとなるポイントは2つ、高齢者の子供世代をターゲットにしたweb仲介と、各所のキーマンを抑えたリアルチャネルによる仲介だ。
とあるweb仲介サイトのデータによると、以下のことがわかった。
以上のことから入居検討者は50〜60代の子供世代が中心となることが推察できる。
総務省の出している年齢別のインターネット利用率で見ると昨今の50〜60代は若い世代とほぼ同水準程度の利用率ともいえ、今後も利用率だけでなく情報検索に関するリテラシーも高くなってくると考えられる。
※ 総務省 情報通信白書(2022) より引用
そのため、ネットによる紹介は今後より一層成長の機会があると見て問題ないだろう。
ネットを介した紹介は今後成長が期待できるのはもちろんだが、一方でリアルチャネルによる紹介も非常に根強いチャネルになっている。
介護施設に入りうる高齢者、ないしは介護をしている子供世代が通うことになるリアルチャネルのキーマンと密接な関係値を気づくことで、紹介の相談を直接受けるフローを構築しているサービスもある。
具体的なリアルチャネルとしては以下のものが挙げられる。
こうしたチャネルをしっかりと握っている企業は安定して紹介業を行うことができている傾向にある。
以上のように、高齢者を取り巻く住環境を概観し、昨今興隆している高齢者向け住宅についてレポートしてきた。
従来の老人ホームでは環境面や費用面でなかなか要介護高齢者の受け皿として機能していなかったところを、間隙を縫うように急増している高齢者向け物件によって、QOLを大きく損なうことなく医療・介護サービスが近い環境に住み替える選択肢が増えている。
介護施設は管轄している省庁や自治体、病状や障害の重さによって申し込める施設や費用などが変わり、申し込みをする子供世代や入居予定者の負担が多い現状があるが、紹介ビジネスに参入する事業主も増え、web化や競争の激化により、入居検討しているエンドユーザーにとって選択がしやすい時代が来るのではないだろうか。
シニアDXラボでは引き続きシニアの住環境を取り巻く動向だけでなく、最新の技術やビジネスをレポートしていく予定である。
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