MENU
公開日: 2022.02.17
更新日: 2024.07.26
日本では人生100年時代と呼ばれる超高齢化社会を迎え、昨今、人々のライフスタイルの在り方は大きく変化している。また、シニア世代の人口に占める割合が増えていく中で、ネットサービスについてもデジタルネイティブ世代とは異なった対応が求められてくる。世界中でも変わりなく、各国が高齢化社会を迎えてきており、これは世界最大の人口を誇り、IT先進国の中国も同様のことが言える。中国はシルバー経済が好調と言われており、その要因について突き詰めることで、日本においてもシニアのDX化のために大いに参考になると考えた。
そのため今回、シニアDXラボはIT先進国でありながら、世界最大のシニア人口を誇る中国シニア世代のネット利用の実態に迫り、好調の要因について解明していきたいと思う。
中国では、高齢者は60歳以上と定義されることが多い。近年、中国の高齢化が大きな話題としてよく取り上げられている。「2020年度国家老齢事業発展公報」よると、2020年11月1日までに、中国の60歳以上の高齢者は2.6億人まで拡大し、全体人口の18.7%占めている。10年前の国勢調査に比べると、8637万人が増え、まさに高齢化社会に突入している。
また、地域別の差も大きい。例えば都市部に比べると、農村部の割合がもっと高く、23.81%となる。経済力が高い地域のほうが比率も高い。例えば、上海23.38%、山東省20.90%、四川21.71%。北京19.63%等、いずれも全国の平均(18.7%)を上回っている水準となっている。
その一方、高齢者全体の学歴が高くなり、高校以上の学歴の人は13.90%で、2010年に比べ、4.98%上がった。
※下記は2014年~2020年、60歳高齢者の人口の増加状況(人数と割合)
中国の高齢者の増加と需要の高まりに伴い、高齢者向けのネットショッピング、レジャーやケア等のサービスが次々とリリースされ、高齢者の豊かな暮らしを図る銀髪経済(シルバー経済)が定着しつつある。
iMedia Researchの調査によると、銀髪経済の規模は2019年比べると25.6%成長し、2020年では5.4兆元の規模まで拡大している。
※下記は2016年~2021年、中国銀髪経済の規模と予測(兆元)
高齢者の収入について、1000元以上の方は28.3%以上占めている。定年後の年金、また貯蓄で日常消費として主に食品(健康食品等)23.5%、医療31.3%、健康診断9.6%、日用品(衣類等)15.6%に使われている。
特にネットサービスの発展により、高齢者のネット利用率も高まり、「中国インターネット発展状況統計報告」によると、2021年6月までに、中国60歳の高齢者のネット利用人数は1.23億、全体(10.11億)の12.2%占めている。昨年に比べても、2600万増加。また、高齢者の平均1日ネット利用は64.8分となり、かなり高い水準である。
※下記は中国の各年代別のインターネット利用率
現在、高齢者として、主にSNS(Wechatなど)、生活ライフ(フードデリバリー、引っ越し、食材購入等)関連のアプリ、娯楽(ゲーム、音楽、テレビ等)を中心に利用している。
各サービスの中に、満足度一番高いのはWechat(8.2、満点10)、美団外売(8.0、満点10)、次Baidu(中国のGoogle、7.8、満点10)、Tiktok(7.5、満点10)、Taobao(中国のAmazon、7.5、満点10)。
※下記は利用頻度高いAPPに対する満足度(点数)
また、Himaraya(音声アプリ)、Jinritoutiao(ニュースアプリ)等の利用も多い。特に、美団外売、フードデリバリーだけでなく、チケット購入、ホテル予約、薬購入配達、タクシー利用等様々なサービスがあり、1つのアプリで多数の需要にカバーでき、非常に好評されている。
北京楓錦同円より開発された「紅松」アプリは高齢者向けのコミュニティ系の勉強アプリとして、ダンス、旅行、楽器など多数の勉強会を通じて、高齢者のより豊かな生活を実現。
アプリ内では、LIVE配信の形に趣味の授業を提供する。
コミュニティ内でグループが作られた後、グループ長を担当するユーザーが身の回りの高齢者をグループに招待し、より大きく成長させていくという仕組みで拡大しつつ、現在はすでに数千万の会員が登録されている。
2022年1月、億元レベルの資金調達も行った。
尚、その一方、高齢者としてはネットの利用難易度が依然高く、60歳以上の高齢者のインターネット利用率は38.6%に留まり、全体の70.4%に対し、まだまだポテンシャルがある。特にコロナの関係、感染リスクを避けるため、外出が困難となり、薬購入、食品の買い出し、旅行等生活不便の課題が生じた。高齢者はネット利用時に「使い方不明」、「文字読めない」、「サポートがない」「音声対応できない」等様々な課題に直面している。
これらの課題に対し、政府も高齢者のネット利用環境を整備させるため、工信部などで「高齢者向けインターネットアプリ改善活動(互 联 网 应 用适老化及无障碍改造 专项 行 动 )」推進している。これに応じて、 高齢者が利用頻度高いAPPは文字拡大、専用アプリの開発など様々な改善を行っている 。
日常コミュニケーション用のWechat(中国のLine)では、文字拡大、方言識別の機能が追加 された。
下記は Wechat内で「関懐(高齢者向け)モデル」に切り替えたら、文字が大きくなり、色も明るくなる 。
美団外売(中国のUbereat)では、音声注文、家族代行購入のサービスがリリース 。Tiktokでは、高齢者向けの座談会を実施し、改善策を講じている。 DiDi(タクシー利用アプリ)では、高齢者専用アプリを開発し、家族代行支払い、優先タクシー手配等サービスが取り入れられている 。
※下記は美団外売の高齢者向けのバージョン(フードデリバリー、食材買いなど)
※下記はDiDiの高齢者向けのタクシー手配サービス
また、ネットショッピングについて、高齢者も各ECサービスの大きな狙いとして、需要も高まっている。京東(大手ECサイト)消費と産業発展研究院の発表された「銀髪経済の発展——2021年度高齢者オンライン消 费 報告》によると、高齢者の消費額は前年に比べ、4.8倍増加。例えば、米、油、調味料等の食品は10倍、オンライン旅行予約は10倍、歯診断予約8倍。もちろん、需要が爆発的な成長の大きな要因の1つはコロナと考えられているが、ネット環境の整備、高齢者の経済力の高まり、消費トレンドの変化等その他部分も高齢者のネットショッピングの利用拡大を後押ししている。
今後、高齢化が進むについて、高齢者の需要に対応できるインターネットサービスが強く求められている。また、高齢者の消費志向はモノ消費から、レジャー、健康等サービス消費までに拡大、消費多様化の発展により潜在的新しいマーケットも次々現れている。
例えば、オンライ医療、薬買い出し代行等。
特に約1.2億と推測されている「空巣老人(子供が成長し家を離れたため、一人または夫婦のみで生活する高齢者)」の生活周りの困り事について、どうやってネット技術で解消するか社会課題の1つになっている。
政府の後押し、サービスプロバイダーの技術改善より、SNS、EC、オンライレジャー等高齢者向けのデジタルサービスがどんどん出ると想定、高齢者にとっては、オンラインとオフラインを融合させた新しい生活様式が生まれてくると思われる。
<参考文献>
日本と同様に、中国のシニア世代も、通販や娯楽(ゲーム、音楽、テレビ等)の利用率は高いが、SNSやフードデリバリー等のサービスの利用率が高いことには驚かされた。地理的な問題や、社会インフラとしてSNSが急激に広がったことが影響しているのだろうか。
2050年に、中国は 60歳以上の割合が 約5億人、世界7位の超高齢化大国になると言われており、今後、シニア向けサービスが増えていくことが予想される。コロナにより、インバウンドによる観光産業は一時的に減少してはいるものの、日本の歴史や文化(食、漫画、アイドルを含む)へのニーズは依然として高いため、インターネットで新たなサービスが生まれる日も近いのではないだろうか。
シニア市場ガイド
「シニアマーケティング」や「事業開発」に関して解説している資料を無料でダウンロード可能でございます。