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シニアのフレイルをマーケティング活動のヒントに

2022.04.12

背景

フレイルという言葉をご存知でしょうか?恐らく、多くの方にとって聞き馴染みの無い言葉だと思います。それもそのはず。こちらのサイトをご覧いただいている方のほとんどが直面していないことに加えて、具体的な症状名では無いためシニア世代の両親や親族も使用していない言語だからでしょう。ただ、全ての方が年齢を重ねていくにつれて直面する課題であり、対策していく必要のあることです。世の中のシニア世代がフレイル予防をしていく上で適切な商品やサービスは多くあるかと思いますが、適切にアプローチできている企業はそれほど多くないように感じます。

今回、シニアDXラボは、世の中のシニア世代がフレイルに陥らず、元気に生活していってもらうために、フレイルとはどういうものか、企業の担当者はどのようにアプローチすることが適切かを解説していけたらと思います。この研究レポートが、フレイル予防が必要になってくるシニアの方々へ、適切な商品・サービスを伝えていってもらう一助になれば幸いです。

フレイルとは何か?

フレイルとは、英語「Frailty」(虚弱、弱さ、もろさ)の日本語訳として一般社団法人日本老年医学会が2014年5月に提唱した考え方です。 健康と身体機能障害=要介護状態の中間に位置づけられる状態 のことを指しております。

*参照: アクティブシニア「食と栄養」研究会

フレイルに陥っていくにつれて、様々な悩みが徐々に増えていきます。

なぜこのような悩みが生まれてくるのかというと、下記に図解しているような「フレイルサイクル」が原因としてあります。フレイルサイクルとは、加齢によって筋肉量が減ると、エネルギー量が低下します。そうなると、食欲が湧かなくなってしまい、食事の摂取量が減っていきます。すると、栄養価が十分に取れないため、低栄養の状態になっていきます。低栄養の状態が続くと、筋肉量が減ってきてしまうという悪循環に陥ってしまいます。これが続いてしまうことで、要介護状態に近づいていってしまうのです。

このように進行していくフレイルですが、フレイルは大きく3種類に分類されていると言われています。「身体的フレイル」と、「社会的フレイル」と、「精神・心理的フレイル」です。

*参照: 厚生労働省広報誌2021年11月号より

これら3つのフレイルが連鎖していくことで、老いは急速に進む一方で、十分な対策を講じることで健康な状態に戻ることができる、つまり可逆性があるのがフレイルの特徴だとのことです。 3つの側面からアプローチしていくことで、フレイルの予防に大きく寄与していきます。

多くのシニア世代の方々は、要介護者になりたくないと考えています。そのため、要介護になることへの危機感も人一倍強く感じていらっしゃいます。ただ、何も対策をしないと老年症候群と言われる要介護状態に近づいていくことは免れません。そういった方々に、フレイルを予防する商品やサービスなどを届けることは非常に意義のあることだと考えています。

次の章でシニアDXラボは、趣味人倶楽部の運営実績や年間300名以上のインタビューデータをもとに、 フレイルの考え方を、マーケティング視点で捉えて、解説していきます。

フレイルのシニアにとっての意味とは?

シニアの理想の人生をお伺いした時に、必ずと言って良いほど「ぴんぴんころり」という言葉が頻出します。自分自身の周囲の人に迷惑を掛けず、元気で“ぴんぴん”とい続け、ある日突然目が覚めずに“ころり”と死んでいくような、そんな生き方を望んでいる人が多いのです。要介護状態になることは、特に要介護状態の人に向き合ってきた人にとってはその苦しみや辛さを他の誰にも、ましてや自分の子供たちに体験させたくないと切に願うようになります。

フレイルは、“ぴんぴん”と“要介護状態”の間に位置づけ、可逆性があるという性質があることを伝えることで 予防の意識を高められるという意味 があるのです。

一方で、“要介護状態”の手前段階ということは、誰しも受け入れがたい事実です。目を背けられないようにするための ①自分事化②予防次第で未来が変わる ことを伝えないとアクションには繋がりません。

フレイルシニアのインサイト

では、いかにして自分事化させるか?3つのフレイルを軸に自分事化させる手法を考えてみたいと思います。

1 身体的フレイル(自分事化難易度:低)

一.自分事化

身体機能は20歳を過ぎると緩やかに低下していくことを誰もが実感されているのではないでしょうか?身体の衰えは自分自身で実感しやすいことに加えて、身近な親族の歩行速度や歩行姿勢を見てイメージができます。つまり、 頭の中で元気な状態とフレイルと要介護状態が最もイメージしやすい ので、自分事化されやすいのです。

二.着目すべきインサイト

多くの人が想像できて、かつ自分に当てはまるからこそ、 自分は他の人と同じようになりたくないというのがインサイト であると思います。また直近では、コロナ禍で外出抑制されたことにより、多くの人が足腰の骨や筋力への不安をいだいていることは想像に難くないので、マーケティング活動をする絶好のタイミングだと言えるでしょう。

三.有効なコミュニケーション

身体的フレイルの中でも潜在層である「元気に近い人」と顕在層である「要介護に近い人」とで分解可能です。

潜在層をターゲットにした場合は、

顕在層をターゲットにした場合は、

この4つの訴求の関係性は下記の通りです。どのような訴求方法があるのかを理解した上で、自社の商材はどの訴求と相性が良いのかを検証していくことが重要になってきます。

四.具体的な事例

<潜在層_訴求②>

少しだけ腰が痛い、膝が痛い、といった身体的フレイルを実感することはありつつ、やろうと思ったことを後回しにすることが人間の性です。 そのため、後回しにせずに、今やる必然性をどうつくるかが大事。

例えば、友人との釣りができなくなる、大好きな登山で周りの足を引っ張ってしまう、など不便を感じるシーンをしっかりと訴求することが重要になってきます。

<顕在層_訴求③>

特に中高年男性に多い印象ですが、「自分が老いていることを、認めたくない。」というプライドがある方が一定います。自分は、まだまだ若いのだ、と思い込みたい、そう信じたいという意識があります。そういった方を動かすためには、

①プライドを傷つけない理由で行動を促すこと ②専門家から伝えてもらうこと 、 が重要になってきます。耳が聞こえづらくなった方の事例です。

奥さんや信頼する友人からのアプローチが有効なケースがあります。

奥さんは、58歳になる旦那さんの耳が遠くなっていることに気づいていましたが、耳鼻科を勧めても、中々行こうとしない。 そこで、「耳掃除をすれば、耳が聞こえやすくなると、友人から聞いたわよ。」と伝えたところ、耳掃除なら、と耳鼻科に行くことを決めたそうです。 実際に耳鼻科に行くと、老化が原因で聴力が下がっていると医師から伝えられ、最近、補聴器を購入したようです。

2 社会的フレイル(自分事化難易度:中)

一.自分事化

社会とのつながりが希薄になる要因は、仕事や血縁関係など自分自身が所属するコミュニティと自己の関係性の変化や、新しいつながりを生もうとする気力の減退によるものです。特に、これまでのコミュニティとの関係性の変化は、0か100の世界なので0になって気付く人が多いのです。よって、対策という考え自体が生まれづらいので自分事化も難しくなります。

二.着目すべきインサイト

対策という考え自体が生まれづらいので、問題が顕在化している人へのアプローチが良いと思います。一般的に年齢を重ねるほどに保守的思考が強まっていくので、無理してまで新しいつながりを生みたくない、余計なつながりで問題を発生させたくないというインサイトがあります。

三.有効なコミュニケーション

つながりを直接的な価値にするのではなく、共通の目標や目的を持たせることが結果的につながりを生むことを促進するコミュニケーションが最も効果的でしょう。共通の目標や目的を持つということは当然お客様のグルーピングが必要になります。

具体的には、
「身内や友達が近くに居ない独居シニア」
独居だけども複数人で楽しめるような趣味を持っている人に、 共通の趣味を楽しむコミュニティを提供する

「家庭にいるけど家族の誰からも相手にされない家庭内独居シニア」

  • 男性社会人の場合:自分が社会人として培ってきた経験や知恵を若者に伝えることで、 共通の話題を世代を超えて楽しめるコミュニティを提供する
  • 女性専業主婦の場合: 旦那への不満や愚痴が溜まっている人が、 家で何もしない傲慢な旦那を共通の敵として語れるコミュニティを提供するなど、ターゲットの細分化とその解像度をあげることで、訴求内容も変わってくると思います。
四.具体的な事例

スポーツ、芸術、学生生活、結婚、ビジネス…など、思った通りに人生が進んでいると、本心から感じている人は少ないという話をよく聞きます。そのため、過去の経験が失敗体験となっており、その繋がりが煩わしいと感じることも多いです。 また、大学時代や社会人時代に、自分の学歴や経歴を自慢し合うのに、疲れてしまった、というインサイトもあります。

そのため、新たに繋がりやコミュニティを提供するサービスを作る場合は、個人情報を匿名にしたり、今の自分を褒める設計にすることが重要になります。 趣味人倶楽部でも、「匿名だからこそ、新しい自分として自由に好きなことに取り組める。」という声をよく聞きます。

また、オフ会でも「大学や会社の役職の話は自慢話となり、嫌われる傾向にあります。あえて経歴や役職については話さずに、今好きなことを話すようにしています。」といった声もあります。

3 精神的心理的フレイル(自分事化難易度:高)

ここまで書いた身体の劣化や社会との希薄さが引き金になる事が多く、精神や心理のみにピンポイントで気付かせることは極めて難しいでしょう。宗教や占い等であれば話は別ですが。

まとめ

  • フレイルとは「健康な状態と要介護状態の中間の段階」
  • フレイルには身体的フレイル、社会的フレイル、精神・心理的フレイルの3つ
  • フレイルや要介護状態は受け入れたくないので、自分事化と予防次第で未来が変わることを伝える必要がある
  • 自分事化の難易度を理解し、ターゲットインサイトを掴みコミュニケーションする

フレイルを自分事化していただくマーケティング活動を多くの企業で実行することで、一人でも多くのシニアの「ぴんぴんころり」な生き方を応援していけると幸いです。

株式会社オースタンスCEO シニアDXラボ室長 菊川のコメント

「フレイル」という言葉も少しずつ認知度が広がり、様々な企業が取り組みを始めているが、単発イベントや実証実験で止まっている印象がある。2019年までは、地方自治体と連携するスキームもあったが、新型コロナウイルスの影響で、リアルでの活動が難しくなったことで、活動自体を断念してしまっているようだ。

一方で、中高年・シニア世代の方々にとっては、この2年間は、外出やコミュニティ活動が減ったことで、運動量や会話量が少なくなり、フレイルが加速しているように思う。私自身の祖母も、この2年で、外出機会が減ったことで、認知症になってしまった。その結果、介護やお金の問題を抱えるようになった。

今後は、中高年・シニア世代のジョブやインサイトを理解した上で、自分ごと化させる訴求方法とワクワクする企画を、日常生活の延長で参加できる形として、届けるべきではないか。リアルの活動だけでなく、ITデバイスやデータを活用しながら、持続可能なスキームとして、企業と自治体が一体となり創っていく必要がある。