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シニア世代の働き方ってどうなっているの?定年後のキャリアの実態調査

2022.02.16

調査の背景:定年後のキャリアは幸せか

人生100年時代と呼ばれる昨今、これまでの人々のキャリアプランは大きく変化している。大学を卒業し、社会人となり、定年退職を迎えたのち、静かな老後を送る。もしかすると、そのキャリアプランは、これからの時代には成り立たないかもしれない。 現代において、在り方が大きく変化しているキャリアそのものをどう考えればよいか 。また シニア世代は現在どのようなキャリア・生活を送っているのだろうか

今回の調査では、人々のキャリアは定年までで終わるのではなく、定年後にも相応に長い働く期間があるのだから、「定年後のキャリア」というものがあるのだという前提に立った 。定年を過ぎた人が自身の経験を活かした仕事に転職し、そこで華々しく活躍できる環境があるかというと、現状はそうではない。 仕事の内容も大きく変わるだろう。定年前に大きな仕事をしてきた人ほど、定年後の仕事の量および質の低下に悩まされることになる。このような「小さな仕事」をシニアの人々はどのように捉え、感じているのだろうか。

シニアDXラボは今回、 リクルートワークス研究所坂本貴志さん(プロジェクトリーダー/研究員・アナリスト) と共に、坂本さんの研究内容から、シニア世代における働き方の現状について考察していきたいと思う。

シニア世代のキャリアの実態

▼キャリアの実態まとめ

雇用形態: 第一の選択肢は非正規雇用。第二は自営業

正規の比率が大きく下がっていくのは50代後半だ。55歳時点と比較すると65歳になるとその比率は半分以下まで下がってしまう。やはり、多くの人は定年を境に正規の職を追われているのである
正規雇用が減少する代わりに増えるのは、パート・アルバイトをはじめとする非正規雇用である。これが定年後の働き方の第一の選択肢だ。 パート・アルバイト、契約社員、嘱託などその他の割合がそれぞれ60代前半から後半にかけて高まっている様子が明確にうかがえる

※50代以降のみ、正規・非正規・自営業を棒グラフで表現

そして、 実は、正規の職を離れた人が選択する働き方として浮上する有力な第二の選択肢は自営業主(雇い人なし)である。この働き方を選択する人は、55歳時点から70歳時点までで3倍以上 になる。
自営というと起業を想起しがちだが、シルバー人材センターに登録して、自身の生活を優先しながらすきま時間で業務の委託を受ける働き方や、不動産管理やライターなどいわゆるフリーランス的な働き方も多い。年金収入を得ながら、こうした働き方で生計を補助しているのである。
現役時代は大半の人が正社員として働く。定年を境に多くの人が正規の職を追われることになるが、その後のキャリアには、非正規、会社役員、雇い人あり自営業、雇い人なし自営業など多様な選択肢が広がっているのだ。

シニア世代において全体の四割近くが非正規雇用となる。次に多いセグメントは全体の約1.5割の自営業である。

職種: 事務・専門職から現場職へ。職種の多様化も進む。

高齢期には仕事の内容も激変する。60歳以降の職 種の変化を捉えたとき、第一の潮流としてみえてくるのは、 事務職や専門職の減少である。グラフを見ると、事務職・専門的・技術的職業は、55〜74歳時点までで半減していることが分かる。

※年代別業種の分布

50代から70代にかけて、事務職や専門職に就く割合は半分以下になる。事務職や専門職などのオフィスワークから、現場職などへシフトし、職が多様化していく。

労働時間&収入: 収入は減るが自由時間は増える。

安定した老後を送るためには何といってもお金が重要だ。高齢者はどの程度の収入を稼いでいるのか、年齢階層別の主な仕事からの収入をみてみよう。
※年代別の年収の分布

ここからは、55歳頃を境に年収が急速に減少していく様子がみてとれる。
主な仕事からの年収が700万円以上の人の割合に焦点を合わせれば、55歳時点から70歳時点までで、80%近く減少する。
日本の労働市場において、定年前後で収入が激減することは多くの人にとっ て避けられない現実なのだ。

※年齢別の労働時間の分布

ただし、収入が大きく減っている背景には、働き方の変化があることも理解しておく必要がある。
年齢別の平均労働時間をみると、 長時間働く人は年齢を経るに従い減少していく 。シニア世代の労働時間は、定年前の労働者の労働時間と比較すると明らかに短いが、これは多くの人が短時間の就業を自ら望んでいるからである。現在の労働時間を増やしたり減らしたりする希望があるかを尋ねてみると、60歳以上は「特に希望がない」が8割となり、25〜59歳の労働者(同約6割)よりも明らかに比率が高くなる。つまり、 年を重ねるごとに、自分のペースで働く人が多くなる ことが分かる。

55歳を境に収入が激減し、年齢を重ねるごとに収入は減っていく。しかし、自由時間は年齢を重ねるごとに増えていく傾向があり、歳を重ねるごとに労働時間の融通がきくようになっていると考えられる。

仕事の量&質:仕事が小さくなり、学びが失われる。

※労働時間の増減希望の有無

高齢者が取り組んでいる仕事の量はどの程度なのか。基本的には歳を重ねるごとに減少し、50歳以後に仕事の量が急激に減ることが推察される。 さらに、年齢ごとの仕事の質の変化を追うと、歳を経るに従って仕事の質が低下していくことがみてとれる。 年齢を重ねるごとに仕事の質がレベルアップした人の数が減少し、逆にレベルダウンした人が増えており、特に、 60歳以降は仕事の質が低下する人が顕著に増えている

※仕事の量と質&OJT、OffJT、自己実現を行っている人の割合

仕事に関する学びも歳を重ねるごとに行われなくなる。 図表1-8は、OJT、Off-JT、自己啓発の別に仕事に関する学びを行っている人の割合の変化を表したものである。OJT、Off-JT、自己啓発については、歳を経るとともに実践率が低下する。ただ、これは既に引退してしまっている人が多いからであると考えられる。 自己啓発については就業者に限定すると、そこまで実践率が減少している様子はみてとれず、むしろ70代半ばに実践率は高くなっ ている

学びの種類によって動向はやや異なるものの、全体としては定年以降、学びが緩やかに行われなくなるとい う傾向がある。期待できる残りの就業年数が少ない高年齢者にとっては、一生懸命学んだところで、その投資 効果の回収は多くを望めない。経済学の理論に照らせ ば、そうした解釈は可能かもしれない。
仕事を通じて職業能力を高め、仕事を拡張し続ける現役時代のキャリアと、自身の能力の限界に気づき、仕事の縮小を受け入れざるを得なくなる高齢期のキャリアは構造が大きく異なるのだろう。

仕事の量は50歳を、質は60歳を境に急激に低下する。これによって、シニア世代は自身の職業能力の低下に向き合いながら、キャリアの初期段階とは違う働き方が求められる。

職業能力:体力と気力と比例し能力が低下する。

※職業能力の構造

次に職業能力の変化について詳しくしていく。 大久保幸夫『キャリアデザイン入門I・Ⅱ』(日経文庫)を参考に職業能力を分解してみたい。 本書では職業能力を基礎力と専門力に分けている(図表2-2)。同 書は定年前のキャリアを議論の中心に据えており、体力や気力など、 高齢時に大きな変化が予想される 能力は明示的に示されていないが、 今回はこれらも仕事をする上で必要な能力と見なした。すなわち、本稿では、本書によって分類されている職業能力に、 「仕事に必要な体力」「仕事に必要な気力」 を加えたものを職業能力として定義する

対課題能力のDIは、65歳以降、概ね マイナス圏内で推移する。処理力、論理的思考力につ いても概ね60歳以降、低下し始める。一方、多くの人は自身の専門知識・技術については歳をとっても保たれていると考えているのである(図表 2-5)。

対人・対自己能力の変化:年齢と共に成長を続ける。

※対人能力、対自己能力、対課題能力の変化
最後に分析したのが体力、気力だ(図表2-6)。この2項目については、定年を前にして既に下がり始める。平均的には40歳以降に人は体力・気力の低下を認識し始めるということだ。 以上の結果をまとめると、 多くの人が伸び続けると認識しているのが対人能力と対自己能力 だ。中でも、対人能力は60歳以降も「5年前と比べて上昇 した」と答えた人の割合が「低下した」と答えた人の割 合を上回る状態が続く。

定年前後に体力・ 気力の低下を感じ、処理力、論理的思考力もやや下がる。一方で、対人能力や対自己能力は向上し続け、専門知識・技術も陳腐化せずに仕事に必要なレベルを保つことができている。つまり、一部の能力は拡大を続けるものの、体力・気力の低下 が主因となって職業能力全般も総体的に下がる。

仕事の難易度の変化: 仕事の難易度は以前より低下する。

「仕事の量」「仕事における権限」も低下の度合いが大きい。一方で、「仕事の難しさ」は小さい。仕事の質は維持・向上することもあるだろうが、量や権限といった外からもたらされるものはより失われやすいということだろう。また、負荷を構成する項目のすべてが定年を経た60代前半以降下がり続けることも重要な事実である。 もちろん、個々によって大きなばらつきはあるもの の、平均的には、定年以降、能力の低下に合わせて 仕事の負荷も低下し続ける。このように、仕事の負荷 が下がることを仮に「仕事が小さくなる」と表現してみると、 定年前と比較して小さな仕事に取り組むということが定年後キャリアの平均像となる。

定年以降は、自身の能力の低下に伴い、仕事の負荷も低下し続ける。このように「仕事が小さくなる」ことが、定年後のキャリアの平均像であることが伺える。

仕事の負荷の適切さ:** **歳をとるごとに、仕事の負荷を適切であると考える割合が増加する。

※能力と負荷のマッチング

定年後に、一定数の人が能力の低下を感じ、多くの人は仕事の負荷の低下を感じる。両者の関係について、 人はどのように捉えているのか。 図表2-11は人が自らの能力を基点とし、仕事の負荷をどう感じているかをみたものだ。これをみると、意外にも定年前後に、能力に比して仕事の負荷が適切であると感じる人が増えていることがわかる。自身の能力に 照らして仕事の負荷が適切であると感じる人の割合は歳を重ねるにつれて上昇する。 定年前は多くの人が能力に対して仕事が過大である と感じている。膨大な仕事量、難しい仕事、多大な責 任。定年後にはこれらの大きな負荷から解放される のだ。50代以降、仕事の負荷が低下していくことによって、 多くの人にとって、仕事は心地よい水準に調整されていく。 つまり、 定年前後で仕事の負荷が少なくなっていくことで、 能力と仕事負荷のバランスが適正化されていく のである。

50代では約4割が自身の仕事の負荷が過大であると考えている一方、シニア世代では7割以上が適切な負荷であると感じている。このことから、歳を重ねるごとに仕事の負荷を適切であると考える割合は増加することが分かる。

シニア世代における生活と仕事:仕事は生活の一部になっていく。

※日々の活動が心に占める比重

歳をとるにつれ、人々の心に占める仕事の割合が小さくなることも忘れてはならない。アメリカのキャリア研究者、ドナルド・E・スーパーの役割 に関する研究をもとに、「勉強」「仕事」「地域・社会活 動」「家庭・家族」「芸術・趣味・スポーツ」の日々の5 つの活動が、働く人の心に占める割合がどの程度かを調べた(図表2-13)。

すると、仕事が心に占める割合は、50代から70代にかけて低下していくことがわかった。 定年前の人にとって仕事は生活の中心だが、定年後は家庭・ 家族、芸術・趣味・スポーツ、地域・社会活動など、 他の活動の位置づけが向上することで、仕事は生活の一部となる 。 定年後の人が、仕事の負荷が少なくなる中でも仕事に前向きに取り組んでいる事実と、ここにあるように、 多くの人が歳をとるに従い、仕事に対する自身の位置づ けを低下させていることは互いに関連しているはずだ。 70歳になっても、80歳になっても、健康でありさえすれば、人生の最後まで働くことが求められるこの時代、 自身の能力と仕事の負荷の低下を感じながら仕事をし ていくことは誰もが避けられない現実となる。 定年後のキャリアにおいて、体力や気力の低下と向き合いながら、いまある仕事に価値があると感じたとき、 人は心から楽しんで仕事に向かうことができる。 昨今、定年後に、やりがいのある仕事を奪われ、失意に暮れるシニアという姿がクローズアップされがちだが、 実態はそうではない。多くの人は意外にもこうした境地に自然にたどり着いている。

定年前の人々にとっては、仕事の心に占める割合は半分以上であるが、シニア世代になるとその割合は減少していく。このことから、シニア世代にとって仕事は生活の一部として上手く調和し、趣味や家族との時間がより充実したものになっていく。

全体サマリ


今回の調査を通じて、シニア世代の働き方に関する実態が一部明らかとなった。その結論は、広く認知されている「やりがいのない仕事に追われる、失意にくれるシニア像」とは異なり、その多くが仕事と私生活を調和させることに成功し、充実した生活を送っていることが明らかになった。シニアDXを推進する研究機関として、さらにシニアの仕事・生活環境が豊かになるために必要な仕組みを、DXの観点から構築していく必要がある。シニアDXラボとしてシニアの実態データを引き続き社会に還元していくことこそが、シニアのより豊かな生活、ひいては人生の礎となっていれば幸いである。

株式会社オースタンスCEO シニアDXラボ室長 菊川のコメント

シニア世代を理解するためには、変化に着目するべきだと話されることが多く、「定年退職」は大きな変化であり、ライフスタイル、消費活動や価値観に多大な影響を与える。

ただ、昨今は「定年」という言葉も曖昧になり、仕事が生活の一部になっていく感覚をお持ちの方も多いのではないだろうか。

トヨタ自動車の豊田章男社長も、終身雇用の維持は難しいと経団連で言及しており、今後、早期退職が増える可能性が高く、50代60代の働き方や価値観も更に変化するだろう。

「キャリア」という言葉を、仕事としてでなく、家庭・ 家族、芸術・趣味・スポーツ、地域・社会活動といった、広義の意味で捉え直し、自分と向き合う時間が必要だ。その中でも、例えばコーチング、セカンドキャリア教育、複業マッチングサービスなど、中高年に合ったサービスが、今後、更に求められるだろう。