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シニア世代のペット事情調査レポート〜飼育傾向やペットが生活へもたらす影響について〜

2022.02.17

調査の背景

内閣府『高齢化の推移と将来推計』によると、2036年には日本の総人口の3人に1人が65歳以上となる見通しが出ている。

一方ペット市場をみると、2019年度のペット関連ビジネス市場規模(末端金額ベース)は、前年度比101.8%の1兆5,700億円と推定されており、犬・猫合算での飼育頭数そのものは減少傾向にありながら、市場規模全体では微増傾向にある。こうした背景を踏まえ、さまざまな企業・団体がペット市場でのサービスを展開している。

今回、共同調査を実施する「犬猫生活株式会社」も2019年から国産無添加フードを製造販売しており、顧客層は50代をメインにシニア層が約半数を占めている。

 

シニアDXラボは、今回、ペット市場でサービスを展開している「犬猫生活株式会社」と共に、今後さらに顕著となる高齢社会を見据えた「シニア世代」と「ペット市場」について、現状と課題を多角的視点で読み解きながら整理する。

「ペット×シニア」市場を取り巻く現状

まずはじめに、ペット産業の主たるターゲットである犬・猫に焦点を当て、飼育率や飼育意向、ペットが高齢者に与える影響等を最新データを交えて解説する。

 

「犬・猫」の飼育率:犬は40代以降で顕著に減少、シニア世代は猫を好む傾向に

一般社団法人ペットフード協会が発表した「全国犬猫飼育実態調査」によると、2021年現在の国内飼育頭数は以下の通り。

  • 犬:約7,106千頭(前年より▲約24万頭)
  • 猫:約8,946千頭(前年より+約32万頭)

犬の飼育率は2017年を頭打ちに減少傾向が続いている。

出典:一般社団法人 ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」

一方、猫の飼育率は2013年以来ゆるやかに増加。特に60〜70代女性(単身)や20〜30代男性(既婚子あり)で高い傾向がみられる。

 

※出典:一般社団法人 ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」

年代別にみると、40代以上の犬の飼育率が2017年以降減少が続き、猫の飼育率は微増傾向を示している。

※出典:一般社団法人 ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」

ペットの飼育意向:全体では減少傾向、60代以降のシニア世代では微増も

ペット(犬・猫)の今後の飼育意向に関する調査データでは、犬・猫ともに2017年から減少傾向にある。近年では50代以下の若年層における飼育意向の減少が顕著である一方、60代では猫の飼育意向が微増、70代は犬猫ともに前年からほぼ変化なしとの結果に。

※出典:一般社団法人 ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」

平均寿命・健康寿命ともに伸び、人生100年時代といわれる昨今において、ペットを家族として迎え入れることを検討するシニア世代が増えていく可能性は十分あるといえる。

 

ペットがシニア世代の生活に与える影響について

65歳以上のシニア世代において、各調査データからペットの飼育がさまざまな好影響を与えることが明らかとなっている。

ペット飼育の効用に関するアンケート調査では、「情緒が安定するようになった」との回答が40%〜49%、「寂しがることがなくなった」が48%〜39%など、精神面での効用を実感する割合が高い。

※出典:「ペットとの共生推進協議会」発行資料

名前を呼ぶ、一緒に遊ぶ、一緒に眠る。これだけでも他者とのコミュニケーションにつながり、シニア世代の単身者が感じる「孤独感」の緩和につながる。また、ペットの世話が運動量の増加や通院回数の減少につながるとの結果も出ている。

※出典:「ペットとの共生推進協議会」発行資料

ほかにも、下記のような効果を実感する声が多数あり、運動面における好影響も認められることが分かる。

  • 運動量が増えた
  • 家の掃除をするようになった
  • 規則正しい生活をするようになった

犬猫をなでたり抱いたりするだけでも脳が活性化し、認知症の予防につながるとの見解(※)も聞かれ、ペットの飼育はシニア世代にさまざまな側面から好影響を与えるといえる。

高齢者がペットを迎える際にネックとなる課題

ペットが高齢者に好影響を与える結果がある一方で、実際の迎え入れにはネックとなる課題も散見される。そのひとつの原因となるのが、ペットの高齢化・長寿命化だ。

2021年時点での犬猫の平均寿命は、犬が14.65歳、猫が15.66歳とどちらも緩やかに伸びている。

※出典:一般社団法人日本ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」をもとに作成

ペットの高齢化の背景には飼育環境の改善やペットフードの改良による栄養面の向上、動物医療の発達などがあるといわれ、ペットを取り巻く環境が大きく関与している。

ペットの長寿化が進む中、人間と同様に犬・猫にも「少子高齢化」傾向が表れており、高齢犬・高齢猫の割合も高くなっている。2021年における高齢期とよばれる7歳以上の割合では、犬が56.1%、猫が45.9%を占める。

 

※出典:一般社団法人日本ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」

▼犬の年齢(構成比)

▼猫の年齢(構成比)

こうしたペットの長寿化に伴って生じている、シニア世代とペットを取り巻く課題を整理する。

 

「高齢ペット×高齢者」の老老問題を見据えた対策を

ペットが高齢になれば、人間と同様に介護が必要になるケースも多い。共同調査を実施している「犬猫生活株式会社」では、商品購入者を対象とした「専属獣医師による相談サービス」を実施しているが、介護に関する相談も寄せられている。

  • 決められた場所での排泄が困難になる
  • 通常の食事がとれなくなる
  • 寝たきりになり床ずれができる
  • 視力や聴力の衰えからくる不安感による夜鳴きが始まる

など、ペット介護のさまざまな問題に直面する機会も増え、飼い主が相応の負担を覚悟しなければならない。高齢飼い主が十分な介護を実施できず、結果的に飼育放棄を招く事態は避けなければならない。

2013年に発表された「犬の飼育放棄問題に関する調査から考察した飼育放棄の背景と対策によると、飼育放棄のおよそ半数が60代以上のシニア層という結果まで出ている。

※出典:動物臨床医学会発表資料「犬の飼育放棄問題に関する調査から考察した飼育放棄の背景と対策」をもとに作成

シニア世代がペットを迎え入れる場合は、数年後に待ち受けるペット介護への現実的対応を見据える必要がある。

また、高齢飼い主側に不測の事態が生じる可能性も十分にある。平成29年度高齢者白書によると、2012年は認知症患者数が約460万人、高齢者人口の15%だったものが、2025年には5人に1人、約20%が認知症になるという推計が出ている。

※出典: 平成29年 高齢社会白書外部サイト 第1章 第2節 3 高齢者の健康・福祉より

認知症に限らず病気やケガによる要介護状態となった場合や、入院・入所を余儀なくされた場合、飼育者よりもペットが長生きをした場合など、高齢ペットだけが取り残されてしまうリスクは十分に想定できる。

その一方で、ペットを飼っている60歳以上の方へのアンケート調査では、ペットの世話ができなくなったときのことを「まだ考えていない」「考えてはいるが準備はしていない」と回答した割合が8割に上った。

※出典:メモリアルなび”アンケート「シニアのペット事情」

ペットを迎え入れるすべての飼い主に「終生飼養」の責任を果たすことが求められるが、シニア世代においては特に、ペットを迎え入れる準備段階として未来への備えができるかが課題となる。

 

高齢者が直面するペットロス問題

ペットの長寿命化は飼い主にとって喜ばしい事である一方、ペットを亡くしたときの精神的なダメージが強く生じてしまうリスクも増えている。飼い主によってはうつなどの精神症状が出てしまったり、身体的な疾病に発展してしまったりするケースもあり、ペットロス問題は軽視できない大きな課題のひとつである。

アイペット損害保険株式会社が実施したアンケート調査によると、半数近い人がペットを喪失してから体調や気持ちの面で現れた不調の期間を「1カ月以上」と回答している。

※出典:アイペット損害保険株式会社

同調査にて、ペットロスを癒すきっかけとして一番多かったのは新しいペットを飼うこととの結果が出ている。

 

※出典:アイペット損害保険株式会社

新しいペットを早く飼い始めた人は、遅い人に比べて早くペットロス症候群の症状が治まるという結果も出ている。しかし高齢になって迎え入れたペットを亡くした場合、新しいペットの面倒を生涯見切ることを考慮すると、前述の問題点からこの選択肢は現実的でないケースもあるだろう。

ペット市場のサービスを活用した終生飼養の実現を

人とペットの高齢化や迎え入れに関する課題に対し、市場では多様なサービスが展開されている。

※出典:PEDGE「ペット産業の動向~市場規模、競争環境、主要プレイヤー」

高齢者も高齢ペットも最期まで幸せな時間を過ごすためにも、各種サービスの浸透を図ることには大きな意義がある。代表的なサービスを整理して紹介する。

 

ペットの健康管理に向けた食事・口腔ケアへの意識付けを

ペットの健康寿命を伸ばすためには、日々の食事管理や口腔ケアは重要な意味合いを持つ。食事管理は、年齢に合ったフードを与えることはもちろん、過剰な添加物を含んだフードが犬・猫の小さな体に影響を与えないよう、栄養面や安全性を考慮し、飼い主がその子にあったフードを選ぶことが重要となる。

口腔ケアにおいても、見落としがちな歯周病などの口腔トラブルは、命に係わる病気を引き起こす可能性があり、2歳以上の犬では約80%以上、猫では70%以上が何らかの口腔トラブルを抱えている(※1)との報告もある。

良質なシニアフード選びや歯磨きと併用した口腔ケアサプリの活用などを通じた日々のケアが、健康寿命を伸ばす一助となる。

今回共同調査を実施している犬猫生活株式会社でもこうしたニーズに応え、2021年にシニア向けフードと口腔ケアサプリを発売している。フードに関しては、既存の全年齢向けからの切り替えの要望をいただいたりと、顧客ニーズが高いことを実感している。また、口腔ケアサプリに関しても、歯磨きが苦手や、毎日磨くことが難しいといったニーズから、サプリメントを併用し口腔ケアができているといった声を多くいただいている。

老犬ホーム(老猫ホーム)やペットシッターの活用

老老問題に直面した際の選択肢となるのが「老犬(老描)ホーム」や「ペットシッター」サービスだ。老犬(老描)ホームは、何らかの事情でペットの世話が困難になった際、中長期的に高齢ペットを預かり介護を代行してもらえる施設である。

老犬ホームの入居頭数は増加傾向にあり、ニーズの高まりがうかがえる。

※出典:老犬ケア「老犬ホーム利用状況調査」

通院や短期入院など、短期的なペットケアにはペットシッターサービスを活用する選択肢がお勧めだ。高齢飼い主に何か問題が生じた時に、準備がないと対応することは現実的に難しい。よって、シニア世代ほど早い段階からこうしたサービスへの理解と準備を進めることが重要だ。

 

シニア世代こそ動物保護団体/シェルターへの理解を

ペットの入手先を調査した結果では、犬の場合は「ペットショップで購入」、猫の場合は「野良猫を拾った」という回答がどの年代でも最多。「愛護団体(シェルター)」からの入手検討有無をたずねた結果では、およそ半数が「存在を知らなかった」と回答している。

※出典:一般社団法人 ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査2021」


日本では年間で約3.3万頭もの保護犬・保護猫が殺処分されている。中でも、成犬や成猫となった保護動物の譲渡率は幼齢個体と比べ低い傾向にある。

弊社は2021年9月に動物福祉財団を設立し、財団では群馬県で保護シェルターを運営している。保健所から犬猫を引き出し、里親を探す活動を行っているが、保健所に収容される個体は10歳を超えるものも少なくない。

ペットショップ等から子犬・子猫を迎えた場合、10年以上の長い寿命期間を共にすることになる。そこに不安を感じやすいシニア世代こそ、保護動物たちと向き合い、ライフスタイルや家族構成に合う新たな家族の迎え入れを検討する機会があってもよいのではないだろうか。

 

ボランティアとしてペットと関わる選択肢も

犬猫との関わり方は「飼育する」だけに留まるわけではない。保護動物団体等では、多くの団体がボランティアとして携わる人手を募集している。直接保護活動を実施するだけでなく、保護された犬・猫たちが人馴れでき、新たな譲渡先に滞りなく受け渡せるよう、一時的に預かりケアをする「預かりボランティア」という選択肢もある。

殺処分問題の解決のためには、

  • 保護⽝猫の受け⽫となるシェルター等の整備
  • 新しい家族を⾒つけるための譲渡活動

これらのバランスが欠かせない。シェルターだけでは保護できる頭数には限界がある。また、新たな家族を見つけるには一定の時間がかかるうえ、保護動物の中には人間に対する不信感を持ってしまうケースもある。

そういった保護動物たちを一時的に預かり、心と体のケアをし、新たな家族へつなぐ。殺処分の対象となり得る保護動物を救い、次世代へつなぐことができる意義ある活動だ。

高齢者で新たなペットの迎え入れに不安を感じている人へ、預かりボランティアとして動物たちと関わる選択肢を浸透させることも、日本のペット市場では意義のあることだといえるだろう。

歳を重ねてシニアになってもペットも人もポジティブに生きよう

ペットは癒しや安らぎをくれる存在であり、アニマルテラピーを含め、動物との交流が高齢者にとって好影響を与える効果が認められている。

一方で、高齢者による高齢ペットの介護や、60代以上の飼育放棄、保護動物の殺処分問題等の課題にも向き合わなければならない。人もペットも歳を重ねた先の未来が少しでもポジティブなものになるよう、口腔ケアを含めた健康面でのケアや「保護動物と関わる」選択肢を当たり前にしていくことなど、まだまだできることは多い。

世界トップを誇るシニア大国だからこそ、シニアとペットの関わりや終生飼養の責任について、社会全体で向き合っていくことが重要だ。

株式会社オースタンスCEO シニアDXラボ室長 菊川のコメント

ペット市場も、犬と猫でトレンドや抱える問題も異なっており、それぞれの違いを認識した上で調査をする必要がある。
飼い主にとって、癒しや孤独感の解消といった心の支えになるだけでなく、運動習慣や脳のトレーニングにもなるため、ペットの周辺サービスが充実してくる可能性は十分に考えられる。
飼い主の高齢化だけではなく、ペットの高齢化に伴うサービスとして、健康面のケアや、終活としての老犬(猫)ホームなど、幅広いサービスやボランテイアを含めた動きが増えてくることだろう。